振り返り

エコロジカルトレーニングを取り入れ始めてちょうど1年が経った。チームはもちろん自分自身に変化が見え始めたと感じる。

そもそもエコロジカルトレーニングとはなんなのか、従来のやり方とは何が違うのかを簡単に説明すると、(これはあくまでも私の解釈になるが)何を持って選手が意思決定しているかが大きな違いがある。

今までの一般的なやり方が「戦術的ピリオダイゼーション」と言われるもので、サッカーをする上で理想の攻撃方法、守備方法があり、それを構造化、言語化し、選手に落とし込んでいく。つまり選手はその理想のプレーに従って意思決定をし行動する。コーチのお手本を見てその真似をするようなものだ。

それと比べ「エコロジカルトレーニング」では選手の意思決定はその場の状況、味方選手との関係、相手選手との関係によって変わる。分かりやすく言うと、2vs1の状況があった時に味方選手がメッシなのかサッカー始めたばかりの初心者なのかで、プレーが変わるようなもの。メッシならすぐにパスするだろうし、初心者なら自分でボールを保持したいと思うはずだ。もちろん選手になんでも自由に意思決定させている訳ではなく、各ゾーンにおけるチームの目標があり、その目標達成の手段方法を選手の判断に委ねている形だ。

では実際に練習ではどのような変化があるのかというと、まず教えなくなった。理想のプレーがある訳ではなく、意思決定は選手の自由なので「コーチだったらこういうプレーをする」といった私の個人的な意見は伝えても、「このように動け」「ここでパスをしろ」といった指示はしない。選手の判断を尊重しているというよりも、コーチと選手、またその他の選手とでは、テクニックや見えているもの周りの状況などが違うから、それぞれが違う判断をするのは当たり前といった感じだ。

選手の育成、チームの作り方も変わった。今まではいかに土台をしっかり作り大きくし、それをピラミッドのように積み上げ、相手チームとどちらが高く大きいかの勝負をしていた感じだが、今は、一つひとつ形が違う、三角形もあれば星形、円形や縦長い長方形など様々な形のピースを、ポジションやフォーメーション声掛けなどで組み合わせていき、なるべく大きな円を作る作業をしている感じだ。困ったことにそのピースはその日のフィジカルコンディションやメンタルコンディション、相手の状況によって毎日のように形が変わるが、上手く当て嵌めることができると、ピース間の隙間が自然と埋まっていき綺麗な円になる。

何を言っているのか分からないかもしれないが本当にこんな感じ。試合が上手くいっていない時は、ピースの形が悪いのではなく、戦術的に上手く当て嵌めることができていないか、相手の状況を分析できていないか、そもそもその味方の選手を理解できていないかが大半を占める。選手の判断ミスというものが存在せず、自由に考えてプレーしているからこそ、指導者の力量が試される。

はっきり言ってこのやり方は性に合っている。今まではビエルサのようなガチガチのサッカーの方が自分に合っていると思っていたが、全くそんなことはなく、選手の心理を読むのは好きだし、試合も局面より全体の流れを分析している。「もっとこうしたら良いのに!」というもどかしさも最近はあまり感じない。「成長」したのかは分からないが、自分自身の大きな変化は感じる。

また選手たちにも最近変化を感じ始めた。それは自分たちで話す量が増えたこと。しかもなかなか戦術的な話。ハースタイムの5分ぐらいあるが、私がほとんど話をしなくても後半にはかなりプレーが良くなっていた時もあった。とても面白いし可能性を感じた。

とは言ってもエコロジカルトレーニングを取り入れて1年。まだまだこれからだ。昨年の自分から今の自分は想像できなかったように、来年の今頃もどうなっているのか全く分からない。非常に楽しみだ。指導者はどうなったら成長なのか、その定義はできないが常に進化を続けたい。