技術の習得

ツバサでは基本的にマーカーを使ったドリブルや対面パスなどの同じ動作を繰り返す、いわゆる反復練習を行わない。技術を習得するにあたって反復練習というのはよくある方法かもしれないが、育成年代において、最も効果的な方法なのかというのは疑問が残る。

まず人は、技術を習得する際、その動作をしている時ではなく、その動作後の休憩中に脳内でシミュレーション、最適化を行い、スキル上達に繋がる。その脳内でのシミュレーションのスピードは実際に行なっている時の20倍だと言われている。

脳内でシミュレーションするのと、実際に行うのとでは大きく違うと思うかもしれないが、そんなことはない。スポーツにおけるイメージトレーニングの重要性は言うまでもない。なぜなら、脳はイメージした事柄と、実際に起こった事象を区別することが出来ないからだ。脳で成功のイメージがない人は、現実でもできるわけない。もちろん成功のイメージがあっても失敗することはある。しかし、成功のイメージがあるからこそ、次どうすれば成功できるかをイメージすることができる。大事なのは体で覚えるではなく、頭で理解することだ。

そして脳内でのシミュレーションは、回数を重ねれば重ねるほど低下していく。これは脳がその刺激に慣れてしまうからだ。一説によれば人の脳は3回経験するとほぼ適応してしまうと言われている。つまり、技術を習得するためには、経験をもとに脳内でシミュレーション、最適化を行い成功のイメージを作る。同じ動作の繰り返しは3回程度にし、変化をつけながら、常に脳に刺激を与え活性化させることが重要だ。

もちろん反復練習が無駄だと言うわけではない。反復練習にもメリットはある。野球などが例えとしてわかりやすいが、人は目で見て行動に移すまでに最低でも0.5秒かかると言われている。しかし、野球のピッチャーが投げたボールがキャッチャーのミットに到達するまでの時間は、時速150kmで約0.47秒、160kmで約0.4秒だ。つまり目で見てから動作を起こすのでは絶対に打つことが出来ない。でも実際にはボールを打つことが出来ている。なぜならバッターは多くの経験から瞬時にボールの軌道を予測し、行動を起こしているからである。私はこの表現は好きではないが、わかりやすく言うと「体で覚えている(実際は脳だが)」からだ。他にもバドミントンや卓球などの超高速で行われるネット型のスポーツも反復練習の成果が出やすい。こういったスポーツは日本は世界トップレベルにある。身体能力的な部分も大きいと思うが、尋常ならざる反復練習の成果が大きい思う。

しかし、サッカーやバスケ、ラグビーなどの対人のスポーツは違う。近年レベルが上がってきてはいるが、まだまだ世界との差は大きい。こういった対人スポーツは相手の動きに合わせて常に変化が伴う。試合中同じパスは一つもない。同じシュートも一つもない。同じドリブルも、同じダッシュも、同じトラップも一つもない。常に変化し続けている。野球やネット型のスポーツもそうかもしれないが、変化の幅は確実に対人のスポーツの方が大きい。

様々な変化に適応できる選手を育てるためには、様々な変化が伴う練習を反復する必要がある。変化を伴っても、変わらない基本となる動きというのは確かに存在する。しかしそれは様々な動きを行うからこそ浮き彫りになるものであり、選手が自分で体験するものだ。逆にこれが基本だといいその動きを抽出しても、その動きが他の動作に繋がっているということを理解するのは難しい。なぜなら基本の動きだということを体験していないからだ。だから、基本の動きの反復練習は、体験が少ない小・中学生より、高校生、社会人の方が効果的だ。大人になってからの方が基本練習の反復練習を楽しいと思う人は少なくないと思う。それはこの反復練習がその他の動作に繋がっているということを体験から理解しているからだ。

私も含め多くの人たちが反復練習を基本として経験してきたと思う。その経験が間違いだったと言うわけではないが、その経験だけが最も優れた方法であり、唯一の手段であると言い切るのであれば、それは間違いだ。日々多くの研究がなされており、指導者の常識も変化し続けている。来年は全く違った練習方法が見出されているかもしれない。固定概念に囚われず、子供たちのように柔軟な発想とオープンマインドでより良い環境が作れるように努めたい。