「教える」より「伸ばす」

「特に11歳までは、子供たちがサッカーというスポーツを楽しめる環境を作り出すことが大切なんだ。結果よりも体験だ。勝者と敗者という考え方で評価するのは正しくない。サッカーというスポーツを通じてコミュニケーションを取り合うことを学び、お互いに尊重し合うことを学び、フェアに取り組むことを学ぶ。そうやって一緒に熱狂しあって、夢中になれることで、彼らはどんどん成長していくんだ。」

これはサッカー大国ドイツのU–12監督の言葉だ。

グラスルーツと言われるジュニア年代の育成において、勝ち負けに拘るのは良くない。なぜなら指導者が試合の結果に拘り、勝つために必要なことを教えてしまうと、子供がそれを自らの力で発見し、成長するための伸び代を奪ってしまうからだ。

もちろん、教えた方が早いのは間違いない。子供が自分の力でそれを発見するのには時間がかかる。答えを知っている大人にはもどかしいだろう。

特に「選手権で勝ちたい」「全国大会に連れていきたい」と考えている人からすれば、いつ辿り着くかも分からないものを待っていては、試合に間に合わないと思うだろう。

ここに大きな落とし穴がある。勝ちたいと思うことが悪いわけではない。ただ「勝つチームを作ること」=「子供の成長」ではないし、「次の大会で勝たせてあげたい」という焦りとも取れる感情は、子供の伸び代を奪ってしまっている。これは紛れもない事実だ。

その裏付けとしてジュニア年代から日本代表までの過程にある。日本のジュニア年代におけるテクニックは世界トップレベルと言われている。それはFIFAランキング上位に位置する国の監督が見てもそう言う。しかし日本代表はどうかというと、まだまだトップレベルとは言い難い。ヨーロッパや南米諸国とは大きな差がある。

ジュニア年代で世界トップレベルの技術を持っていても、大人になっていく過程で、残念ながら抜かれてしまっている。なぜなら、ジュニア年代で勝ち負けに拘り、勝つためのサッカーを教えてしまったばかりに、その後選手が伸びにくくなってしまっているからだ。

皆さんはスマホに新しいアプリをインストールした時に、「このスマホ成長したな」と思うだろうか?子供はロボットではない。ロボットではないから、言われたことをただ「はい」と返事をし、言われた通りに実行する事ができるようになった子供を見て「成長したな」と感じるのは正しくない。子供が自ら困難を認識し、考え、判断し、実行する。そしてたくさんの失敗を経験し、時には挫折を味わいつつも、自分の力で進もうとする姿に成長を感じなければいけない。結果それが失敗に終わったとしてもだ。結果は成長の表れではない。過程が成長そのものだ。

時間がかかるかもしれないし、もどかしいかもしれないが、大人は根気強く子供を信じ、待つことはとても重要だ。特にジュニアの年代では。

試合に勝ちたい、全国大会に出たい、よく分かる。でもゴールはそんな手前ではないはず。目の前の試合に勝てれば、将来はどうでもいいなんてありえない。皆さんは子供たちにサッカーをさせる上で、何をゴールとしその環境を選んで、あるいは作っていますか?子供にとって本当に良い環境とはどういったものでしょうか?